北海道・十勝、新得町を拠点とするクラフトビールブランド「GANKE BEER」のブランディングにおいて、CHO-Pと夜.の2社体制で参画。夜.ではVI、パッケージ、リーフレットのデザインを担当した。
ビール販売店での棚調査や競合分析、消費行動の整理を通じて、GANKE BEERを「店頭で選ぶもの」ではなく、「その土地に行き、交流の中で勧められ、体験として飲むもの」として定義。カムイミンタラの水や十勝の恵み、その土地の時間や空間までも含め、“その土地ならではの自然を飲む”体験としてブランド価値を設計した。土地性・美味しさ・継続性を軸に、言葉・造形・世界観まで一貫したブランド体験を構築している。
作り手の丸橋さんは欧州9ヶ国を自転車で巡りながら、ビールが単なる嗜好品ではなく、人と人との距離をやわらかくつなぐコミュニケーションツールとして機能していることを体感していた。その経験から生まれた答えが「その土地に行って飲みたいと思えるビールを作りたい」だった。この言葉を起点に、ブランドの差別化軸を「ビールとしての強度」に据えることにした。大雪山から流れる伏流水、新得産の素材、自家栽培ホップ、自然環境を活かした熟成——北海道の自然を"背景"ではなく"味の一部"として捉え、「この土地だからこそ成立する美味しさ」を追求している。
クラフトビール市場はすでにレッドオーシャンであり、ストーリーもパッケージも完成度の高い競合が多数存在する。その中でガンケビールは、語れるだけでなく、飲んで確かに感じられるブランドを目指した。
クラフトビールを好んで飲む層を、若年層とミドル層の二方向から整理した。若年層は専門店での体験や口コミを入口に、複数人で楽しむコミュニティ性を重視する傾向がある。一方ミドル層は、その時の気分や食事、シーンに合わせて、飲みやすいものからコアな味わいまでを主体的に選ぶ傾向が見られた。共通していたのは、「ブランドを知って商品を選ぶ」のではなく、「フレーバーや体験をきっかけにブランドへ接続する」という購買構造。個別の体験を入口にブランド認知が形成され、その後、ブランドと商品を回遊していく導線が想定される。この構造は、パッケージや接客の設計にも直接影響している。
価格帯は330ml・800円前後を想定。特別感と継続性を両立し、定番商品では親しみやすさを、季節商品では素材や風味の実験性を担保することで、飲み続けるほどに奥行きが増す商品ラインナップを想定している。

ガンケビールのビジュアル全体に貫かれているのは、「目立つことで選ばれない」という戦略的な選択だ。クラフトビール市場の棚調査を通して、多くの競合が色・装飾・情報量によって視覚的な差別化を図っていることを整理した。その中でガンケビールは、あえてその競争から降りている。 余白を大きく取ったラベル、ソリッドなシンボル、絞り込まれたタイポグラフィ——これらは「静かだが軽くない」という独特の佇まいを生んでいる。素朴さと緊張感が共存するこのトーンは、受け手に「作られた世界観」ではなく「実在する場所と人」を感じさせる。 パッケージは単体で完結するのではなく、置かれる場所・撮られる文脈・手に持たれる瞬間を含めて、はじめてブランドとして機能する設計になっている。

新得町の屈足湖を望む断崖「ガンケ」は、アイヌ語でカムイロキ、神の座を意味する。樹々の中に現れる岩肌をモチーフに、自然の神聖さと静かに見守る親しみやすさを内包したシンボルを開発した。シンボルには、「毎日ここからビール作りを見守っている」という視点を重ねている。そこに形があるようでないような浮遊した存在感を持たせることで、場所そのものが語りかけてくる物語性と場所性を付与した。シンボルは小さく扱えば余白が生まれガンケの雄大な空気感を引き立て、大きく扱えばそれ自体の存在感が際立つ。遠景で景色に溶け込み、近景でスケールを印象づける、自然の中での見え方の変化を設計に取り込んでいる。 ロゴタイプは丸橋さんの書き癖をベースに、ゴシック体として再構築した作字を採用。「ブランドとしての器の広さ」と「作り手のこだわり」が共存するバランスを体現している。


「毎日ここからビール作りを見守る崖」と「毎日ここでビールを作る人」。その関係性と実直な姿勢を、ミニマルでソリッドなラベルに落とし込んだ。ラベルは完成形として固定しない。試作を重ねながら更新されていく状態そのものをコンセプトに、時間の蓄積を可視化する設計にしている。多くの競合が情報量と装飾性で差別化を図る中、ガンケビールは余白によってビールそのものへの期待値を高めることを選んだ。フォントは英字にFlux、日本語にゴシックMBを採用。日本語には94%の平体をかけ、ひたむきな姿勢と骨太な意志を表現している。日本で作られたビールに、日本で生まれた書体を組み合わせることで、土地性と思想を連動させた。

商品と並べた際に凛とした存在感が立ち上がるよう、縦型のスリムなリーフレットを設計した。余白を大きく取ったレイアウトとミニマルなタイポグラフィによって、ガンケビールの静かで力強いトーンを表現している。表面はフレーバーごとに差し替えられるフォーマットとして設計した。商品名・素材・産地をパッケージと連動した構成で掲載しつつ、そのビールが生まれた土地の文脈を写真で表現する。Carrot Leafでは冬の崖を背景にビールを注ぐカットを配置し、「その土地で飲む」という体験がそのまま一枚に収まっている。裏面はブランド共通の面として機能する。「カムイミンタラから、おすそ分け。」という言葉を縦組みで右端に立て、余白の中に思想を置く構成とした。水・素材・十勝ダムでの熟成など、土地環境が味へと転換される過程を記載しつつ、今後展開予定のラインナップや醸造家のプロフィールも掲載している。説明として読ませるのではなく、ブランドの時間軸ごと手渡すツールとして設計した。

A P-OTF ゴシックMB101
Flux 2
